【感想】佐藤 亜紀「黄金列車」 KADOKAWA

佐藤 亜紀「黄金列車」 KADOKAWA

豊崎社長が進めていたので、電子書籍で購入。

読み始めから、すでに、色んな意味で旗色が悪く、明るい材料が全然ない。
うーんこれは重いなぁと思いながらちょっとずつ読んでいたが、人物たちの人と成りが認識できてくると、俄然夢中になっていた。
本当に、戦争はおろかで、どうしようもない、とつくづく思い知らされた。でも、ただそれだけしか残らないお話とは違う。

とても映画的というか、いろんな場面が映像(絵)でパッと浮かんでくる。
描写としてはとても堅実で浮ついたところはビタ一文ないのに、とても鮮やかに画面が浮かび上がる。
現実と、主役バログの回想(幻想も含む)とが平行して語られているのに、惑うことは全然ない。

官吏たちがどうにかこうにか、自分たちのやり方で、ユダヤ人没収財産を守るという務めを果たしていく。慣習(日々の訓練)に裏打ちされた行動が、一番強いのかもしれないと思った。

これのおかげで、ハンガリーでのユダヤ人迫害の歴史を知った。少しずつの変化に、人間は鈍いのだなぁと感じる。気がついた時点では、進みすぎていて容易に後戻りできない。
これはきっと古今東西、同じ。
だからこそ、「あんなことはもう起きない」は、ないのだ。おそろしい。

愚かだとわかっていても、恐ろしさは消えないけれど、でも人間は希望を見いださずにはいられない。
ラストは、明るい兆しを感じる。そしてこれもやっぱり、映画で見たくなるような、ハッとする劇的な場面だった。

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