【感想】司馬遼太郎「坂の上の雲」
小説,司馬遼太郎,「坂の上の雲」, 文春文庫
坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-01 |
坂の上の雲〈2〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-01 |
坂の上の雲〈3〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-01 |
坂の上の雲〈4〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-01 |
坂の上の雲〈5〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-02 |
坂の上の雲〈6〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-02 |
坂の上の雲〈7〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-02 |
坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)
文藝春秋 1999-02 |
約1ヶ月かけて読みました。
感動しました。
ひとくちに感動といってもいろいろ種類があります。
悲しかったり嬉しかったりしてやたら泣けてしまう場合もあれば、夢中になって気分が高揚して何度も繰り返してのめりこんでしまう場合もある。
ただ私にとって、それらは、自分の中でも表層の部分が刺激を受けているだけともいえます。
今回の感動は、頭や心のうわっつらでなく、腹の底から、静かで、でも熱くて強いものがこみ上げてくる感じがしました。
元々、若干あまのじゃくで個人主義な私は、集団団結の美しさや自己犠牲の精神にはまったく関心がありません。
小説や映画に出てくる「国のためにがんばる」「死ぬ気で戦う」等には、どちらかというと一歩ひいて見ていて、場合によっちゃ嫌悪感も感じることもしばしばでした。
もちろん、オリンピックなどで国対国の対決を楽しんで見ますが、国のためにというよりも、それぞれの選手じたい、もしくはそのチームじたいががんばってることに感動しているだけで、国の期待なんてつらいプレッシャーにしかならず気の毒だなぁと思っていました。
でもそんな私が、この小説で、日本の国のために粉骨砕身がんばる人たちの姿を読んで、本気で熱いものがこみ上げてきたのです。
今回それが一番の驚きでした。
学校で習う歴史では、近代史というのは本当におざなりの扱いで、特に明治維新以後から太平洋戦争までというのは、空白に近いです。
日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦という言葉を点としてとらえているだけで、それらがどういうつながりを持ち、線となり、形づくられていったのか、まったく分かっていませんでした。
正確に言うと如何に今まで知らなかったかをこれを読んで痛感しました。
明治維新以後の時代は、戦国時代なんかよりもずっと、今の自分たちの生活に直結してくる時代なのに、それを全然知らないなんて、それでも日本人か!と反省。
でもそんな人は多いんだろうなと思います。歴史教育ってのは、古代から始めるんじゃなくて、古代から現代へという流れと、近代から古い時代へという流れ、両方向からやる必要があるなじゃにかと思いました。
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さていきなり大幅に脱線してしまいましたが、「坂の上の雲」。
このタイトルはとても秀逸ですね。ほとんど「日露戦争物語」といっていい内容なのに、このタイトルのおかげで、ただの戦争モノではなくなっていることが分かる。
響きがとてもやわらくてシンプルで、でも言葉どおりの意味のほかにもいろいろ暗示させるところがあって、とても日本的。
小説なんだから、司馬遼太郎という1個人のフィルタを通しているもので完全に客観的なものではないんだから、と自分に言いきかせてはいました。
実際の史実どおりといっても、最後にあの劇的な勝利となる日本海海戦をガッツリともってきていて、エンターテイメントしてよくできているし。
また、合間合間にさしはさまれる余話もとても興味深く面白く、スパイの話などはこれだけで小さな短編として成立するんじゃないかと思いました。
ただ、また話が元に戻りますが…、やっぱり自分の国、自分の民族の、少し以前の姿がこれなのか!と思うからあんなに夢中になってしまったんだろうと思います。
たとえば、なんで日露戦争が起きて、なんでそんなに必死で戦ったのか、についての記述。
日本人にとっての「日本の国」という意識は、国土=その土地そのものと結びついていて、ヨーロッパなどでは民族、人間や宗教や言語そのものに強烈にもってるような意識は希薄であること。
だから「土地がなくなる、ロシア人に取られてしまうかもしれない」という危機意識から、とにかく必死で、智恵を絞ってむちゃくちゃがんばったというくだりには、かなりストンと腑に落ちました。
その後、この大勝利ゆえにその後迷走を始める軍と日本国家についても少し触れられています。
なぜ太平洋戦争が起きてしまったかも、以前よりも実感として分かった気がしました。
日本人が、賢い智恵を持っている割には、すぐ浮かれて歯止めが利かなくなるのも、今に始まったことじゃないだなぁと…。根が深いんだなぁ…。
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そんな風に、いろんなことを考えながら、夢中になって読んでいた私が、この小説で唯一泣けたのは最後の最後でした。
秋山真之が正岡子規の墓前に立って、墓碑を読んだときです。あの徹底的に写実的で事実しか書いてないそっけない墓碑。
いわゆる直接的な「泣かせ」のせりふも演出は何もないのだけど、泣けて泣けて仕方なかったです。
この気持ちは、ちょっとまだうまく言い表せません。
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…と、ここまで書いてみたものの、やっぱりうまくまとまりませんでした。
あ~あ。長文かつ駄文で申し訳ない。
11月からのNHKドラマも見て、そして小説もまた数年後に読み返してみたいと思います。
そうそう、私、高校生のときに田中芳樹「銀河英雄伝説」に夢中になってたのですが、あれがこんなにまんま「坂の上の雲」オマージュだったとは…不勉強でしたわ。
そりゃ「銀英伝」面白いはずですよね!こっちもまた読み返したくなっちゃったな。
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