【感想】『往転―オウテン』

往転―オウテン」、脚本:桑原裕子(KAKUTA)、演出:青木豪、シアタートラム

今まで何回か見て、とても好きだった作家/演出家のお二人のタッグということで、すごく期待していました。
そのせいか、結果、ちょっと物足りない・・・という感じでした。
KAKUTAやグリングを見終わった後にあった、ジンとくる感動みたいなものが、あまりなかったんですよね。2つが混ざって、薄まってしまった気がしました。

脚本は、場面と時間がバラバラと進む、単純ではない作りではありましたが、決して難解というほとではなかった。
KAKUTAでもよく見てきた、恋愛、情欲、性癖をモチーフにし、人と人との感情のぶつかり合いがいろいろ今回もあったけど、どれもあまりピンとこなかったんだよなぁ。 

奔放だった母の遺骨を兄弟に配る女性やら、ヤケクソで買った女性を実家に連れて帰るストーカーやら、女性同士の恋愛に悩んで自殺未遂する若い女性やら・・・。結構特殊な例が多くて、いやマイノリティといったほうがいいのかな、ピンとこなかった。
唯一ハートを掴まれたのが、ホリエモンもどきの若手実業家と息子にたかりに言ってる田舎のおばちゃんの二人エピソード。俳優さん二人の演技が達者なのもあったのか(ナイロンの峯村リエさん、ファンです!)、笑いながらも哀しみが感じられたんです。

自分に縁がないシチュエーションだからピンと来ないってのは、ドラマとしては致命的なのでは・・・と思います。
自分とはまったく違う世界だと思ってた話が、実は自分や自分の周りにありそうなことかもと気付かされて、ハッとなる、ってのが「おはなし」の醍醐味の一つだと思うのです。
それがうまくいってない(と私には感じられた)のは、脚本のせいなのか演出のせいなのか、それはよくわかりません。 

演出も、かなり凝っていたけど、凝り過ぎてた・・・?かな・・・?
見終わった後もモヤモヤして、一晩明けて考えてみたけど、やはり、「うーん?」てかんじ。
グリング等とは対局にある、「見立て」と「映像」を多用した演出だったけど、なんつーか、効果的だったのかというと、そこまででもなかったような・・・。

映像の使い方とかって、ついついナイロンとかと比べちゃうので、物足りなくて。
ナイロンとか、 映像と舞台がまるでシームレスにつながったかと錯覚するような演出とかも多くて、ハッとさせられることが多いんだけど、今回はそういうのが全然なかった。例えば、桃園の風景を延々映すのとか、あれ要ったのかなぁ?あの小さな画面だけで映すんだったら、あまり効果なかったような。

ある程度舞台装置を抽象化して「見立て」でやる方向だと思ったんだけど、具体的な映像が入るので、それも中途半端になってしまった気がするなぁ。
バスの模型を何回も利用してたけど、どうなんだろう・・・。

私の乏しい観劇経験の中で、「見立て」っぽい演出で突出してすごいと思うのがやっぱり野田秀樹さん。
現実的な小道具は何も使わないのに、別にパントマイムをやってるわけでもないのに、役者と役者のあいだに「具体的な風景」がしっかりと見えるんですよね。
どうしてもあれと比べてしまうので、ちょっと今回は、いろいろやってるんだけどあまり胸に響いて来なかったなぁ・・・。

と、長くなってしまいました。
でも長くなったのも、これからの期待感の現れなんです。きっと。 

今まで見たグリング(青木豪さん作/演出)の公演

 

今まで見た桑原裕子(KAKUTA)さん作/演出の公演

 

 

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