【感想】宮部みゆき「小暮写眞館」
小説,宮部みゆき,「小暮写眞館」, 講談社
小暮写眞館 (書き下ろし100冊) | |
宮部 みゆき
講談社 2010-05-14 |
シンプルで分かりやすく、お話がドンドン進んでいく事が多い宮部みゆき作品、と思っていたら、これは全然毛色がちがった。
主人公の男子高校生"花ちゃん"の独白(一人ボケ&一人ツッコミ)でつづられる物語。
時系列で進んではいるけれど、語られる内容が、家族のことだったり、高校生活のことだったり、地域のことだったりと、あっちゃこっちゃにとびまくるので、なんとなく、とっちらかった印象。
でも、読み進めていくにつれて、きっと、この、雑多なことがあちこちで同時に進行していく「日常らしさ」を描くのがねらいなのかなぁという気がしてきた。
そして、心霊写真について調査をする話を重ねながらも、最後はきっと、4歳でこの世を去った妹”風子”のエピソードでしめるんだろうなぁというのも読めた。
ただ、先が読めたからといって面白くないというわけではない。
これは、過程を楽しむ物語なんだと思う。
大人が描いた高校生だから、現実の、今の高校生が読んだら、違和感があるのかもしれない。
でも、私が中・高校生のときに読んでいた小説だって、更に昔の大人が考えた若者が描かれていた。
「それはそういうもんだしね。時代も場所も違うから今の自分とは一緒じゃないよね。っていうか自分が世間の標準ってわけでもないしねぇ」と、割り引いて読んでいたと思う。
だから、こんな、ある意味いい子ばかりの高校生がでるお話があっても、いいじゃないか。
この物語、私は「逃げること、と、逃げないこと。両方共を肯定する物語」だと思った。
家族の死にまつわる悲劇から、みな、数年間逃げていた。でも、それもあり。
花ちゃんは、最後に逃げずに親戚にひとりで立ち向かった。それもあり。
無愛想でワケありの、不動産写真の垣本順子。
彼女の人生は逃げっぱなしだった。
でも、最後の「逃亡」は、新しい人生を出発させるためのもの。
むしろ、今までの人生から目を背けず正視して、区切りをつけるためのものだった。
生きていくには、どっちかが正しい正しくない、なんて言っててもしょうがない。
そのときそのとき、やれることをやるしかないんだ。
そんなことを、やさしく、描いていた物語だと思う。
夜中にベッドで一気に読み終えたので、感極まって、なんだかさめざめと泣いてしまいました(笑)
語られてる内容が多岐にわたるので、自分が本当に小さい頃のことやら、女友達とつるんでるばっかりだった高校生の頃や、上京して一人暮らしをはじめていろいろタカが外れた大学生の頃やら、いろいろドッと思い出が流れ出ちゃったかんじです。 ほほほ。
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