【感想】「合葬」
「合葬」,日,2015,監督 小林達夫,(渋谷シネパトス)
※ネタバレあり。
以前、借りて読んだ杉浦日向子さんの原作がすごく好きだった。
歴史上の出来事が、今の自分達と地続きに感じられる身近さがあった。
あらすじは悲劇なのに、読後はさわやかと言ってもいいくらいだった。
これを、渡辺あやさんが脚本を書くと聞き、ものすごく期待して見に行った。
結果として、原作とはまるで違うベクトルでの衝撃を受けて終わった。
直後は、呆然、と言ってもいいくらいだった。
ひとことで言うと「生々しかった」。
主な要因は、悌二郎の妹・砂世の衝撃的な告白という、原作と異なるラストシーンのせいだとは思うが、それだけではない。
よくよく思い出してみると全編を通して「女」を意識させる要素が周到に散りばめられていた。
女性のナレーション(子どもっぽくも色っぽくも感じるカヒミ・カリィ)、柾之助を厄介ばらいして大福をほおばりほくそ笑む養母たち、怪談話に出てきた、木の股で眠る男の話も女絡み。深川の芸者、女どうしの小さないざこざも印象的に描かれる。
メインの少年たちの周りに、女の影をしつこく描いたあげく、ラストがあれ。
妹の何気ないウソによって兄が死んだ。
自分の罪深さに押しつぶされそうと言いながらも、現在の夫に告白する話は、どこまでも美しい一夜の逢瀬。
その妹を演じるのが、門脇麦ちゃんてのがもうね、すごいね、確信犯って感じ。
最近の若手女優の中で、正統派美女ではないが、なんとも言えない怪しい色気が郡を抜いていると思う。
「否応もなく巻き込まれた若者たち」というあらすじは原作とほとんど変わらないものの、雰囲気がここまで変わるとは。
結局、戦争をしない女達が鍵を握っているってこと?男たちを手玉に取っているのは女?身内の女性、かわいい妹のちょっとした甘えでさえ命取りになるってこと??
でもだからといって女性が強く優れているということでもなさそう。女性は女性で、すごく哀れで悲しげな存在に見える。
極にほのかな恋心を描く、料理屋の女中かな。唯一可愛らしく描かれていたが、彼女とて自分の都合のいいように事実をねじまげている。(極が「邪魔だ!」と言ったのを「危ない!」と言ったと嬉しげに話す)。
少年の考えの浅さ、純粋さを描く一方で、女は老いも若きも、感情的でどうしようもない存在だとチクチク言われているようで、本当にこっちもグサグサきたわ・・・。
ま、我ながらちょっとうがちすぎな感想だと思うが。
また、原作からの改変としてもう一つ大きいのは、悌二郎の最後の戦への巻き込まれ方。
あれだけ戦を毛嫌いしていた彼が、逃げ道がないと知ると、急に能動的にハイテンションで戦争に参加するようになる。そしてあっけなく死ぬ。
話がそれるが、私がデモ等に参加するのを恐れる理由ってこういうことだなと思った。
ああいう大きなうねりの現場に身を置くと、自分自身の意志など流され無くなってしまう気がするのだ。
自分が常日頃確信を持っていたこと、何を好んで何を嫌っていたかなどの事実が、まるでどうでもよくなってしまう。
自分が自分じゃなくなってしまうのではないか、という恐怖。
そんなごく個人的で原始的な心情を喚起させる要素が、ドラマの中でサラッと描かれてしまうと、不意打ちで太刀打ちできない衝撃がある。
映像は暗めなのにとても美しかった。
極の柳楽優弥というキャスティングは本当にぴったりで、最後の切腹シーンの壮絶さは彼ならではと思えた。
柾之助の瀬戸康史は、普通の子らしさがより強調されていてよかった。
オダギリジョー、ハマりすぎ。色っぽすぎ(笑)。
原作とはまるでちがう感触だったにも関わらず、私はこの映画を素晴らしいと思った。
淡々とした描写の向こう側に、人間の恐ろしさ、バカバカしさを確かに感じられたから。
好きな映画、というのとはちょっと違うが、忘れられない映画だ。
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