【感想】田辺聖子「窓を開けますか?」

田辺聖子「窓を開けますか?」新潮文庫

たまたま近所の古本屋で買って読んだ。
田辺聖子さんの小説、私にとってハズレはないんだけど、今回も期待以上にアタリ。
ぐっと引き込まれて後半は一気に読み切ってしまった。
最後の主人公の決断は、私にとってはすこし意外だった。
もう40代も後半の私は、年だけ重ねたお子様なのかも。いや、単に、ときめきよりも安定性を好むってだけかな…。

それにしても、この小説に出てくる神戸の街(阪神地域の街)が美しく活気に満ちて魅力的なことといったら!
震災が来る前の神戸の、品と猥雑さ両方併せ持つおもしろみにあふれた街。四季の鮮やかさ、厳しさ。
ここで夢見るようなキラキラとした毎日を過ごしたい、あじさいホテルに行ってとんかつ食べたい、と思ってしまった。

調べたらTVドラマになっていたのですね。
でも、舞台は神戸じゃなかったみたい。主役が松坂慶子というはピッタリだなぁ。
ちと美人すぎるけど、でもスキ無い美人じゃなくて、可愛らしい、ちょっと抜けたとこがあるのがいい。

1972年の小説。
登場人物の年齢に、10歳足すくらいが、今の感覚に近い気がした。

物語終盤のふと出てきた主人公の述懐に、ぎょっとする。

どうして男たちというのは、こうやって自分の思う型に、女をはめようとするのだろうか。
いや、男だけではなくて、女もそうである。
この世の中、人を強制しようとする人間でいっぱい、頭ごなしの指図と、命令、号令にみちみちているのだ。

今、SNS上で他人をジャッジしたがる人であふれている、と言われているけど、そんなのとっくの昔からそうだったのね。
ほんまに賢い人には、見えているし、それを易しく冷静に表現できるんやなぁ。
恋愛小説でありながら、こんな示唆に富んでいる、それもあって田辺さんの本は大好きだ。

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